手仕事で削り出す、時計の「石器時代」
スイスの独立系ブランド、Anomaが新作「A1 Prehistoric」を発表した。その名が示す通り、テーマは人類が最初に道具を作り始めた先史時代。ケースやダイヤルの表面に手彫り(ハンドチゼル)による加工を施すことで、石器や骨角器を思わせる荒削りな質感を意図的に作り上げている。精密機械の象徴である腕時計を、あえて「道具としての原始性」に引き戻すアプローチは、高級時計の文脈でも異彩を放つ。
チゼル加工がもたらす一点一点の個体差
ハンドチゼルとは、鑿(のみ)や彫刻刀に類する工具を手で操作しながら金属やその他素材を彫り込む技法で、機械加工では再現しにくい不規則な刻みと凹凸を生む。A1 Prehistoricではこの工程を量産ラインに組み込まず、職人が一本ずつ手を動かして仕上げる。結果として、同じモデルでも個体ごとに表面の刻み目や陰影のパターンが異なり、まったく同一の個体は存在しない。コレクターが一点物的な価値を求める際の根拠が、製造工程そのものに組み込まれている形だ。
Anomaというブランドの立ち位置
Anomaは設立から日が浅い独立系ウォッチメーカーで、大手コングロマリットに属さない独自路線を取る。既存の時計美学に収まらないコンセプトを打ち出すことを一つの軸としており、A1 Prehistoricもその延長線上にある。先史時代の石器製作を「ナップ(knapping)」と呼ぶが、Anomaはそうした太古の手仕事の論理を現代の金属加工に接続しようとしている。素材や搭載ムーブメントの詳細は現時点で正式に公開された情報の範囲に限られるため、確定した数値としてここに記すことはしないが、ブランドの過去の姿勢から見て少量生産体制を維持していることは確かだ。
日本市場での見通し
Anomaは日本国内に正規販売代理店を持たず、購入窓口はブランド公式サイトや一部の海外セレクトショップに限られる。このクラスの独立系ウォッチメーカーの作品は、国内二次流通市場に出回る絶対数が少なく、ヤフオクやクリーマ、海外ではChronoext等のプラットフォームでも出品頻度は低い傾向にある。手彫り加工による個体差という特性は、コレクター市場において希少性の根拠として機能しやすく、正規価格より上乗せされた価格での取引が成立しやすい構造を持つ。投資目線で見ると、少量生産かつ再現性のない手仕事仕上げのモデルは、流通量が増えにくいため値崩れしにくい部類に入る。国内で入手を目指すなら、ブランド公式からの直接購入が現実的な第一手となる。